子どもについて
目次
親権
親権争いはどのようなものなの
親権は、非常に紛争が激化しやすい問題です。財産問題と違い、間をとって歩み寄るということができません。All or Nothing の世界です。感情も入りまじり、容易に解決はできません。
意思をもつ子どもの意向に配慮する必要があり、「子の福祉」を考える必要があります。当事者でない第三者の視点により、子の福祉につき、冷静に、客観的に考えるには、弁護士の助力があった方がよいでしょう。
日本の法制では、親権が定まらないと離婚が実現できないことになっていますから、離婚そのものが実現しない苛立ちとあわせて、非常に紛争が激化しやすい傾向にあります。苦しい闘いになることが多いですので、一緒に立ち向かう支援者が必要だといえるでしょう。弁護士は、その役割を担うことができます。
親権はどうやって決めるの
子の福祉に適するかどうかで決めますが、以下のような点を考慮しながら決めることになります。
- 現状でどちらが監護養育しているか(継続性の原則)
- 監護をはじめた経緯に連れ去りなどの問題はないか(奪取の違法性)
- 監護養育能力があるか
- 監護養育者の監護体制・経済状況はどうか
- 監護養育の支援者がいるか(監護補助者)
- 母性的なものが認められるか(母性優先の原則)
- 子の意思はどうか(子の意思の尊重の原則)
- きょうだいは分離しない方がよいのではないか(きょうだい不分離原則)
- 友好的な親子として振舞えるか(フレンドリー・ペアレント・ルール)
- 元夫婦の葛藤感情と切り離し、面会交流に協力できるか
- 子どもに別居親の存在を肯定的に伝えることができるか
- 子どもが面会交流に消極的な場合に、別居親との面会交流を子どもに働きかけることを、同居親の責務と理解できているか
裁判所は、できる限り子どもの生活環境を変えない方がよいという前提のもと、継続性の原則を重視する傾向にあります。現状を変更して何か問題が起こっても、裁判所が責任をとれないという判断もあるのかもしれません。
そうすると、非監護親が、親権を取得したいと考える場合、まずは子どもを自分の手元で監護養育できるようにしなければ、親権を取得することは困難ですから、望むと望まざるとにかかわらず、紛争は子の奪い合いの様相を呈してくることになります。悲しいことですが、現実問題として、このような問題がつきまといます。
親権者に万が一があったときのためにどう備えればよいの
離婚に際し、一方配偶者が親権者になることを決めた場合に、万が一、自分が死亡した場合には、残された子どもはどうなってしまうのかと、心配される方も多いです。
この場合、未成年者のために、親権を行う者がいなくなってしまうので、家庭裁判所で、未成年後見人を選任しなければなりません。その際、元配偶者が選任される可能性もあります。
もし、これを防ぎたいのであれば、遺言で未成年後見人を指定するという方法があります。
弁護士であれば、遺言書作成のお手伝いもできます。費用を抑えるなら自筆証書遺言の方法もありますが、不備があって有効性に疑問が生じてはいけませんので、公正証書遺言の方法をおすすめします。
子の引渡し
どんなときに子の引渡しを求めるの
典型は、配偶者が子どもを連れて出ていったため、意図せず別居状態になってしまった場合です。非監護親が、親権を取得したいと考える場合、まずは早急に子の引渡しを求めることを検討します。さきにみた継続性の原則により、時間が経てば経つほど、非監護親にとって不利になっていくからです。
監護者指定・子の引渡しとは何なの
通常、任意に子の引渡しを求めても、これに応じることはないでしょう。裁判所を利用して、子の監護者指定・子の引渡し審判の申立てをします。
監護権とは、子どもと共に生活し、日常の世話や教育を行う権利をいいますが、親権のなかに含まれています。しかし、離婚するまでは、夫婦共同親権になりますから、夫婦が別居している場合、裁判所にどちらが監護すべきかを決めてもらわなければなりません。監護者として適切と指定された者は、手元に子どもがいなければ、これを実現することができませんから、子の引渡しも一緒に求める、ということになります。
早急に判断を求めるということで、審判前の保全処分の申立ても検討しましょう。
監護者指定の基準となるのは、親権のところでみたものとおおむね同じです。
加えて、いわゆる子の奪取事案の場合、以下のような点も検討が必要です。
たとえば、保育園にいた子どもを無理やり連れ去られてしまったなど、子どもの奪取事案では、奪取の違法性が重視されます(なお、たとえ親権者であっても、子どもを連れ去れば、基本的に、誘拐罪に該当し、犯罪となります。)。
子の奪取事案の場合、子を奪われた側よりも、奪った側で監護養育させるべきことが、明らかに子の福祉に資するような場合でなければ、子を引き渡すべきなどといった判断もされています。
人身保護請求とは何なの
子どもの奪取に顕著な違法性が認められる場合は、人身保護請求をすることも検討できます。この手続は、法律上正当な手続によらないで、身体の自由を拘束されている被拘束者について、拘束から解放し、自由を回復させることを請求する制度です。
この事件に関する審理及び裁判は、法令上、裁判所において、他の事件に優先して行われ、請求のあった日から1週間以内に期日が開かれる、判決言渡しは審問終結の日から5日以内に行われるなど、特に迅速な解決を求めることができるところに特徴があります。
面会交流
面会交流とは何なの
父又は母と子との面会及びその他の交流のことをいいます。
面会の方法としては、子と別居している親が子と直接会うことだけでなく、親子が電話やメールによるやり取りをすること、写真や贈り物の交換等をすることなどの方法もあります。
別居後、離婚前の間に、非監護親が、監護親に対して求める場合や、離婚後、親権者に対し求める場合などがあります。
法的には、父又は母が他方に対して、子の監護のために適正な措置を求めることができる権利であると理解されています。面会交流は、子の監護のための方法の1つであるといえるでしょう。
面会交流は実施しないといけないの
裁判所は、面会交流調停が申し立てられたら、原則的に実施させる方向で協議をしています。
ただし、
- 非監護親による子の連れ去りのおそれがある
- 非監護親にある子の虐待のおそれ等がある場合
- 非監護親の監護親に対する暴力等がある場合
などには、面会交流を制限します。
裁判所は、面会交流を実施することが、子の健全な成長に欠かせないから、当然に子の福祉・利益になるという前提で考えているものと思われます。明らかに子の福祉・利益に反する制限事由がない限り、原則的に、面会交流を実施すべきだという考えのようです。
もちろん、面会交流の実施につき、夫婦間に争いがないような事案であれば、その方法について検討すれば足りるでしょう。
しかし、本来、親子の関係はさまざまで、「その子」の福祉や利益になるかは、個別に検討しなければならないはずです。ご依頼者様は、自分の心配事や不安を無視して面会を実現させようとしていると受け取ることが少なくなく、裁判所にこれらがうまく伝わらないもどかしさを抱いていることが多いです。
子の福祉・利益について、裁判所に伝えたいことがあれば、しっかり伝えましょう。弁護士は、そのお手伝いができます。
裁判所には、調査官という子どもに関する専門家がいますので、調査官が協議に参加したり、必要な調査をしながら、協議を進めていくこともあります。
裁判所が、試行的面会交流、交流場面観察などを行い、このときの状況を踏まえて、今後の面会交流の可否・内容・実地方法などについて検討していくということもあります。
さまざまな関係者と協力しながら、みなが子の福祉を考え、協議を進めていくことが理想ですが、子の福祉に関する考え方が大きく対立し、協議が紛糾することも少なくありません。いずれにせよ、面会交流は、親権と並んで、協議が紛糾しやすい問題といえます。
どのような方法で面会交流をするの
面会交流をする方向で検討する場合、どのように実施するかも、とても難しい問題です。
以下のような点を検討していかなければならないでしょう。
- 直接会うのか、写真や贈り物のやり取りなどにとどめるのか
- どのくらいの頻度でするのか
- いつするのか
- 時間はどのくらいか
- どこでするのか
- どうやって子どもを引き渡すのか
- どうやって子どもを返すのか
- 親族が関与してもよいのか、親子の面会にとどめるのか
- 第三者が関与してもよいのか、親子の面会にとどめるのか
- 宿泊してもよいのか
- 運動会、体育祭、文化祭、授業参観などに参加してよいのか
- 体調不良や日程があわなくなったらどうするか
- 子どもが嫌がったらどうするのか
- 調停終了後の連絡手段はどうするか
- 面会時の遵守事項を定めるか、どのように定めるか
- 子どもが成長したらどうするのか、再検討しないのか
どんなに少なくとも、頻度、日時、場所、子の引渡し方法については、定めておかなければ、トラブルのもとです。
特に、弊所が扱う、地方での面会交流においては、実施場所が深刻な問題になりえます。
相手方親族との不和や不信感を背景に、実家等で実施することに拒絶を示される方も多いです。地方においては、公園等の公共の場においても閑散として危険だと感じられたり、連れ去りの心配があったり、第三者機関の関与のもとでなければ不安が強く実施できないという意向を示されたりと、適切な実施場所がなかなか見つからないということもあります。
この点、弊所は、地域密着型の事務所として、地域のことに精通しておりますので、面会場所について、ご依頼者様のニーズ、心配事、不安なところにあわせて、適切と思われる場所のご提案を差し上げることができます。
婚姻費用・養育費
子どものためにどんな支払いを求められるの
別居してから離婚するまでの子どもの生活費・養育料、離婚してからの子どもの生活費・養育料につき、どのようにお金を確保するのか、気になるところですね。
前者については婚姻費用、後者については養育費の支払いを請求できます。
どれくらいの金額になるの
実務的には、算定表を利用した、簡易ですみやかな計算が行われています。長年利用されていた算定表が古いものとなってしまったことなどから、令和元年12月23日、新しい算定表に改定されました。
新しい算定表に関するご紹介は準備中ですので、今のところは、従来の算定表による計算に関するご紹介についての記事を残しておきます。
【従来の算定方法について】
一般に、いわゆる算定表が利用されています。
弊所では、計算ツールを用意しておりますので、目安としてお使いください(一般的な計算式で計算しているものの、相手方や裁判所で認められることを保証するものではありません。あくまで目安ですのでご注意ください。)。
必要な情報は、
- 相手方の年収(額面金額)
- ご依頼者様の年収(額面金額)
- 15歳未満の子の人数
- 15歳以上20歳未満の子の人数
です。
養育費・婚姻費用計算ツール
ただし、算定表は、あくまで目安です。
算定表は、必要な方の生活費や養育料を確保するため、すみやかに計算ができるよう、統計数字を利用して計算しています。そのため、素早く計算できる反面、若干正確性を欠いているという面があります。統計に反映されていない、個別事案ごとの特殊事情を主張する必要があります。
生活費として足りないのではないの
婚姻費用・養育費の計算をおおざっぱに説明すると、支払う側が子どもと一緒に生活していた場合にどのように生活費を分担すればよいか、という発想で計算をしています。
とすれば、子どもの独立した生活を保障する趣旨で計算するわけではないので、「生活費が足りない!」というお困りごとが生じることも多いです。
弊所は、必要があれば、弁護士の指示のもと家計表を作成していただき、家計の見直しを行ったり、生活設計の見直しをお手伝いさせていただいています。
たとえば、女性においては、金銭面で悩みを抱えるという現実が多く認められます。家計表をチェック、親族等からの援助を受けられるかなどを検討することに加え、以下のような制度等の検討も行っていくとよいと思います。
- 児童扶養手当
- 児童手当
- 特別児童手当
- 就学援助
- 母子福祉援助
- ひとり親家庭等医療費助成
- 寡婦・寡夫控除
- 生活福祉資金
- 生活保護
たとえば、男性においては、会社の制度として支給されていた扶養手当がなくなる可能性がある、さきに見た児童手当の受給資格がなくなるなどして、減収の可能性があります。男性が子どもを監護養育する場合、長時間の仕事が難しく、残業を減らすなど時短が必須と思われる場合、転職を余儀なくされる場合などがあり、減収の可能性を考慮に入れた生活設計が必須です。
養育費を定める際にどんなところに注意すればよいの
養育費を定める際に、たとえば、「慰謝料的な要素も考慮して、少し高めにしておこう。」「財産分与的な要素も考慮して、少し高めにしておこう。」などといった考慮をして、いわゆる算定表の相場より高めに養育費を決めることがあります。
しかし、養育費は、いったん決めるとそれを変更することがかなり難しい通常の金銭債権と違って、養育費増減額調停などにより、予想できなかった後の事情変更により、金額が変わり得るという特殊性があります。後に減額の危険がある以上、安易に、「養育費」名目で、他の要素を加味して増額という手法はあまりおすすめできません。養育費は養育費、財産分与は財産分与、慰謝料は慰謝料、又は解決金という形で、項目を分けて定めることをおすすめします。
養育費が高めに設定された場合は、後に、手当を受給したいという局面などにおいて、「あなたは多めに養育費もらっているから、手当受給の対象になりませんね。」として、予想外の不利益を受ける可能性もあるようです。安易に、他の項目の内容を養育費の加算という形で反映させることには、慎重な検討が必要であるといえそうです。
養育費に税金はかかるの
扶養義務者相互間において、生活費又は教育費に充てるためにした贈与により取得した財産のうち、通常必要と認められる財産の価額は、贈与税の課税価格には算入されず、非課税とされています。ご安心ください。
扶養義務の扱いですから、当然と思います。ただし、扶養義務の履行として支払っているのか、贈与として支払っているのか、問題になることもあるので、通達において、非課税になる範囲が、詳細に定められています。
名目が婚姻費用や養育費であったとしても、その額が過大であったり、将来分を含めて一括で受領し、それを預金したり株式や不動産などの買入資金に充てている場合には課税されることがあります。
養育費・婚姻費
計算ツール
以下の入力欄を埋めて下さい。
ひと月の養育費
0 〜 0円
ひと月の婚姻費用
0 〜 0円
※あくまで算定表に基づく目安としての数字としてご利用ください。最終的に認められることまで保証できるものではありませんので、あしからずご了承ください。
強制執行
養育費が支払われないときどうすればよいの
裁判所に申出をして、履行勧告をしてもらいましょう。裁判所が履行状況を調査して、相当と認めるときは、相手方に対し、履行を勧告してくれます。ただし、強制力がありませんので、強制的に支払いを求めようと思うと、別の手段をとる必要があります。
元ご夫婦の間では、相手方の勤務先がわかっていることも多いですから、相手方の給与の差押えを検討することは多いです。その他、預金の差押えも検討できますが、基本的に、相手方の預金がある銀行・支店名までを特定できる必要があります。
ただ、相手方が転職し、行方がわからなくなってしまうと、結果的に支払いを確保できなくなる可能性がありますから、勤労意欲をそがないよう、強制的な差押えではなく、任意に支払いの督促を続け、回収につとめるような場合もあります。
定めたはずの面会交流に応じてくれない場合はどうすればよいの
さきにみた、履行勧告の制度を利用することができます。
改めて話合いをすることで、応じない原因になっていた不信感をやわらげたり、事情の変更を踏まえた新たな条件を話し合えたりすることで、面会交流を実現できる場合もあります。その場合は、再調停の申立てをすることになります。
強制的に面会を実現させようとする場合は、裁判所を利用して、間接強制を求めることになります。応じない相手方に対し裁判所が損害賠償を命じて心理的な圧迫を加え、面会を促し履行させることになります。
仮に、間接強制を利用すること予想される場合、そもそも調停条項を、ある程度具体的で給付内容について特定されている必要性があります。
具体的には、
- 日時又は頻度
- 各回の面会交流の時間の長さ
- 子の引渡し方法等
が具体的に定まっている必要があります。
裁判所は、任意の履行を促し、双方の協力のもとで面会を実施してほしいという願いを込めてか、必ずしも具体的に条項を定めないことがありますから、調停成立時、どのような条項にするかのチェックは必要だと思います。
間接強制金の金額は、明確な指針がありません。相手方の対応や相手方の資力のほか、面会交流がなされない場合に面会を求める側に生じると予想される交通費等の経済的損失などが金額の算出の根拠とされるようです。具体的金額として、1回につき5万円や7万円等と定められた例があります。
面会交流を不当に制限・妨害する監護親に対しては、慰謝料請求ができるとされています。面会を促す材料として利用できる場合もあるとは思いますが、一方で、対立が激しくなり子の福祉に資するかどうかについては慎重な検討が必要と考えます。
面会拒絶が親権の濫用にわたり、子の利益を害する場合には、親権者・監護者変更の申立てを検討すべき事案もあるかもしれません。
監護親でない第三者が面会交流を妨害する場合には、第三者に対する面会交流の妨害禁止請求を検討すべき場合もあります。
子どもを引き渡さないときはどうすればよいの
面会交流と同様、間接強制により、応じない相手方に対し裁判所が損害賠償を命じて心理的な圧迫を加え、子の引渡しを促した上、履行をさせることになります。
裁判所の執行官が、現地に赴き、直接子どもを引き取る、直接強制ができるかについては、議論がわかれています。子どもを物と同様に扱うのかという反発があるからです。一方、これができないとなると、いつまでたっても子ども引き取れない可能性があります。
一般に、子の年齢などにも配慮し、意思能力のない子の引渡しとしては、直接強制を認めるという扱いのようです。弊所も、幼い子の引渡し(直接強制)の経験があります。
ただし、この場合は、執行官に動いてもらうことになりますから、執行官の費用についても、お金がかかってしまいます。